妊娠、悪阻、乳腺症

東洋医学理論

2023年9月8日。写真は福岡城、舞鶴城です。

変遷する妊娠への漢方薬

私どもが漢方を始めた40数年前、不妊症の漢方薬として3大処方が有りました。
当時の漢方の教科書にも載っていた処方です。
当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸です。

確かに当時はこの3処方を使い分け不妊症の患者さんに対応していました。

時代で変わる不妊症治療

現在は、漢方薬局に不妊症で相談に来られる患者さんに、この3処方を使うことは非常に少なくなっています。
婦人科の検査や技術が発展したからだと思われます。当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸で妊娠する人は婦人科で妊娠しているのかもしれません。

今も婦人科で妊娠されなかった患者さんが漢方の世界に来られます。
40数年前は殆ど使われていなかった薬方で妊娠する方が増えています。

これも時代の変遷だと思います。

安胎薬

安胎薬専門の漢方薬とは
妊娠中の安胎薬と思われている当帰芍薬散ですが、本来の証は妊娠中の腹痛の薬方です。

安胎薬は当帰散

安胎目的ですが、妊娠したら殆どの婦人が飲んだ方が良いとされる安胎薬専門に当帰散が有ります。金匱要略に「婦人妊娠、宜常服、當歸散主之」と「婦人が妊娠し常に飲むと良い。当帰散は之を主る」とあります。

流産予防の当帰芍薬散と芎帰膠艾湯

当帰芍薬散は妊娠中の腹痛が本来の目的です。化学流産の予防に使用したり、切迫流産や早期の流産を回復させる働きがあります。
習慣性流産の方が当帰芍薬散を服用していると妊娠が継続できる場合も多いです。
また流産気味で出血が止まらない時などは芎帰膠艾湯の適応と成ります。

当帰芍薬散が安胎薬となる事も有りますが、当帰芍薬散は流産予防や習慣性流産の予防と考えた方が良いです。本来の安胎薬は当帰散です。

低体温の人は白朮散

他に、基礎体温が低いタイプの方、低温期で36度2分を切るタイプの方は低体温の可能性があります。妊娠4か月位までは花椒が入った白朮散がお勧めです。子宮への血流を増します。
妊娠中期まで白朮散を続けると、胎児が大きく育つことも有りますので注意が必要です。

悪阻つわり

悪阻は妊娠初期の症状ですが、吐き気が酷い場合は食事も摂れない事があります。
吐き気を止め食事ができるよう改善目的で様々な漢方薬が有ります。

まず有名なのは陽証の小半夏加茯苓湯です。それに陰証の乾姜人参半夏丸です。
どちらも服用時に生姜汁を入れると効果が増します。

様々な悪阻の漢方薬

他に五苓散、呉茱萸湯、人参湯、旋覆花代赭石湯、半夏厚朴湯、二陳湯加黄連1縮砂1連翹1などが有ります。
傷寒論、金匱要略に「乾嘔する者,桂枝湯之を主る」と有ります。これにより桂枝湯を悪阻に使うこともあります。

また伏龍肝の上澄みで小半夏加茯苓湯を煎じた伏龍肝煎は嘔吐に対し効果が増します。

伏龍肝

伏龍肝煎は伏龍肝の上澄み液で小半夏加茯苓湯を煎じます。悪阻等の吐き気を抑える力が増します。

伏龍肝とは

伏龍肝は黄土で作ったカマドを長期使用します。そしてカマドの中心に近い所の焼き土を使います。虚寒による胃腸出血、嘔吐、止血の効能があります。
成分はミネラルですが、効能との関係は解明されていません。

処方には黄土湯や伏龍肝湯などがあります。
黄土湯は陰証の腸出血、鼻血、吐血、子宮出血など、潰瘍性大腸炎、直腸がん、子宮内膜症などに応用します。

伏龍の意味と代用

伏龍は、力のある龍が伏せる意味です。
日本では、能ある鷹は爪を隠すや、実のある穂は頭を垂れるなどと同じ意味です。

伏龍肝の無い時は、素焼きの壺を割ったり、レンガや上薬の掛かっていない瓦を割って代用したりします。

伏龍肝煎は、伏龍肝4グラムを水600ミリリットルにて攪拌します。しばらく置き透明な上澄み液500ミリリットルを取ります。上澄み液で小半夏加茯苓湯を煎じて作ります。

乳腺症と東洋医学

生まれた赤ちゃんに、母乳を与えるのは女性として特別なものがあると思います。赤ちゃんは自分で免疫機構が整いだす生後9か月までは母乳から免疫を貰っています。

乳腺症

母乳は血液です。血液中の赤色の赤血球が除かれ白い母乳が出来ます。
母乳を始めると細菌感染により乳腺症に悩まれるお母さまが多いです。催乳にて解決する方も多いですが、胸が張り痛みが激しい方も多いです。

青皮

乳腺症は炎症ですので温める事は禁物です。
乳腺症の伝統的な漢方薬は多種あります。
他に、日本に伝わる民間療法で乳腺症に青皮を使う方法が残されています。伝統的な漢方薬と青皮を併用すると乳腺症への効果は非常に早くなります。

麦芽

麦芽を使う方法も有ります。麦芽を炒って潰し8グラムを1日量として煎じます。麦芽一味、もしくは四物湯に加味し四物湯加麦芽などで使用します。
ただ麦芽は乳汁分泌を止める事がありますので注意が必要です。

蒲公英、金銀花

清熱清心作用のあるキク科の蒲公英、タンポポには、健胃作用や殺菌作用があります。金銀花などと煎じ乳腺症などの化膿性疾患に使用することも有ります。
また蒲公英の柔らかい若葉は催乳薬としても知られています。