漢方の薬理学は形象薬理学

東洋医学概念

2023年7月5日。写真はインドネシア、バリ島です。

刺トゲ

東洋医学の形象薬理学では、刺は攻破の働きがあると考えます。
漢方生薬としては釣藤鈎や皀角利などです。
刺で頑固な病態を突き破る働きですので、生薬の収穫時期も刺が硬化した時になります。

釣藤鈎は脳動脈硬化に使用される釣藤散に使われます。
皀角利は腫れものや化膿症に使われる托裏消毒散などの構成薬味です。

動物薬では犀角、一角、零羊角などの角も刺と同様です。先の尖った物は破る働きがあります。

攻破の働き

攻破は、頑固な高熱、頑固な動脈硬化、硬くなった腫物、頑固な病などを破ります。

攻破の働きは、動物薬も植物薬も先端の尖った部分程ほど効果が高くなります。
犀角なども根元より先端の方が効果が強いです。
攻破は瀉法になります。

角でも補剤の鹿茸

同じ角でも鹿茸などは補剤です。
逆に、尖っていない先端が丸い鹿茸や骨化して硬化していない鹿茸ほど良品になります。

蔓の漢方薬

秋に山に入ると真っ赤な真紅の美しい花が木々に絡んでる姿を見る事があります。
九州では9月の後半位から、ちょうど涼しくなり気持ちの良い季節に見れます。
葛の花です。根から取れるデンプンは、くず湯として親しまれてきました。
漢方薬ではこの花の根を葛根として使います。

蔓の葛根と防已

葛以外に山で良く見る蔓はオオヅラフジです。
この蔓を漢方薬では防已として使います。
1年ものの防已は青く細いですが、年数が経つと太くなります。

葛根は木の上へ絡んで行きます。
防已は地を這って伸びて行くことが多いです。
漢方では葛根は上焦に使用し、防已は下焦に使用します。

蔓の働き

どちらも蔓ですので水を通します。防已は下焦の水を通します。
葛根は血液中の水分が減少し肩から上の血滞が生じた状態に、水を通し血滞を回復させます。
血流を改善するので、肩こりに葛根の働きが出てきます。そして葛根の美しい花は真紅の血滞の色です。

アケビの蔓

小さい頃、夏に山に入りアケビを取って食べていました。アケビも蔓です。
アケビの蔓は漢方薬では木通として使います。
木通は水毒の痛みに使われます。

自然は、その生態系に寄って性質が異なります。そこで出来た漢方薬を服用すると、その漢方薬が育った生態系と同様な働きをします。

東洋医学の形象薬理学です。自然は不思議です。

葛根湯の成分

葛根湯の処方内の各薬味の成分は薬理学的に分かっています。
葛根のダイゼリン、麻黄のエフェドリン、桂皮のフェニルプロパノイド、芍薬のペオニフロリン、甘草のグルチルリチン。
その成分を集めて葛根湯を作っても効果がないのです。

葛根の質の鑑別

生薬の葛根の良否判断は、粉状にデンプン、葛クズが吹いているかどうかで鑑別します。
吹き出ているデンプンの微粒が多いほど、東洋医学では良質の葛根になります。葛根のデンプンは葛湯のクズです。

判明している葛根湯の成分だけでは、葛根湯としての効果はありません。
葛根のデンプンだけでも効果はありません。
その両方で効果のある葛根湯が出来あがります。

エビデンスと無縁の東洋医学

判明している事、エビデンスだけでは東洋医学は語れません。

分かっている事を認め、分からない事は否定しない
それが東洋医学を学ぶ姿勢だと思います。
分からない事は、無いのではなく分かっていないだけです。事実をそのまま受け入れるだけです。

地竜のアンコ

地竜はミミズを乾燥した動物薬です。解熱薬として用います。
他に気管支の痙攣を抑えることによる気管支拡張作用、降圧作用、溶血作用、後遺症の改善などに使われる場合があります。
近年は溶血作用が注目されています。

地竜の効果のある部分

漢方では主に解熱作用に使用しています。地竜はミミズの中にアンコが入っています。このアンコ、ドロが入っていないと効果が悪いです。

私が若い頃の地竜はアンコが入っているため非常に臭かったのを覚えています。
しかし30年ほど前からアンコを洗い流した地竜が多くなりました。猛烈な臭みは無くなりましたが、解熱効果は落ちました。アンコ入りの臭い地竜の3倍ほどの分量を使わないと同様の解熱作用が期待できませんでした。
地竜は、中の臭いアンコが効いていたと思われます。

私の知り合いの漢方薬局でアセトアミノフェン禁忌の患者さんに地竜を出し、アレルギーを起こしたと聞いています。お気を付けください。

有効なマクリも

マクリと言われる海藻の海人草が有ります。
駆虫薬としても使われます。また生後間もない乳児に湿疹体質の予防や新生児黄疸の予防として吸わせ、胎毒を下します。

この海人草も綺麗にゴミを洗い流すと効果が落ちます。
海中で海人草に付着していたゴミに何か効果があるのかもしれません。