東洋医学の古典の食養生

漢方食養生

2023年9月19日。写真は福岡県福津市宮地嶽神社です。

食と古典

東洋医学の古典である黄帝内経他には様々な食に対する記述があります。

病気になった作物や、背中の曲がった魚は食べるな」などの記載もあります。遺伝子的に変異している可能性のある物は避けなさいと言う事か。
現在の食事では遺伝子組み換えや品種改良が当たり前になっています。

食の基本

長生きしたければ寿命の長い食物。
元気でいたければエネルギーの強い物。
生きた物は気が有り、保存食は死体になります。
私の小さい頃、「生き物は精がつく」と病人に刺身を食べさせることが多かったと記憶しています。

閉蔵から発陳で新しい命を

1週間、常温で置いて腐れる肉や野菜は副食
直ぐに腐れない穀物、種子やイモ類は、次世代へDNAを繋ぎます。これが主食になります。

素問四気調神大論では冬は閉蔵です。
種子やイモ類は、次世代へのエネルギーを閉蔵しています。
そして閉蔵したエネルギーを、次の春に発陳します。
春に新しい息吹が、新しい命が生まれます。

私達はその閉蔵した気。息吹、命を主食として頂いています。

食と医

孫思邈の千金要方第6巻食治論に「医は病の源を把握し、犯された個所に応じ食にて治せよ。食にて治らざれば、薬を用いよ」とあります。

  • 食にて病が治る事。
  • 食は病の源。犯され個所によって変える事。
  • それで治らない時は薬、漢方薬を使用します。

が記載されています。
その人その人の体質や状態によって食は変えないといけません。

主食は穀気

栄西禅師の喫茶養生記には「一切の食は甘を性と為したる也」とあります。
食の主食は甘であると記載されています。ここで言う甘は砂糖ではありません。
脾の臓は穀気、後天の気を運用します。脾の臓の五味は甘です。甘は具体的には穀物やイモ類を中心とした澱粉質です。

飽食の私達は糖質ダイエットをしないといけません。しかし飢餓の状態で生きて行くにはエネルギー源が必要です。

食養生では主食の甘は、食性が穏やかです。だから主食になります。
副食は、身体に対し食性、薬性がやや強い場合が多く、そのため主食にはなりえません。

私達の歯は上下片側では、噛み切る前歯が2本、肉食の犬歯が1本、臼歯が4本、親知らず臼歯が1本です。
磨り潰す臼歯が8本中5本です。これは私達の先祖が何を食べてきたか現しています。

漢方薬としての卵

排膿散という漢方薬があります。化膿性疾患で患部が固く腫れている時に使用すると膿が排出され急速に改善します。
患部が柔らかい時は排膿湯と言う漢方薬を使用します。日本では排膿散と排膿湯を合方した排膿散及湯が使われることも多いです。

応用として癤セツおでき、癰ヨウ複数のおでき、面疔、にきび、麦粒腫ものもらい、扁桃腺炎、歯槽膿漏、中耳炎、副鼻腔炎など化膿性疾患に幅広く用いられます。

この排膿散は原典である金匱要略には、「服用する時に卵黄1個を混ぜお湯で飲む」ように指示されています。記載通り卵黄を入れると効果が増します。

瘭疽に生卵を

漢方百話、矢数道明著には、瘭疽に生卵の奇効の表題にて、瘭疽、指先の化膿性疾患で激痛がします。酷くなると指を切断しないといけません。
これに対し生卵の上部に穴を開け指を入れ、目の高さより上に挙げ40分以上静置すると、痛みと炎症が消失した症例を何例も挙げられています。

刀傷に卵白を

また甲字湯や乙字湯を創った水戸藩の藩医だった原南陽の砦艸には刀傷を酒で洗った後、卵白を使う治療法が書かれています。

生卵は雛がかえるまで温められます。
その期間は卵の中は高温なのに無菌状態が保持されます。生卵には殻での防菌以外にも、黄身、白身の部分に殺菌作用や消炎作用があるのかもしれません。

卵の黄身は胆のうを収縮させ胆汁を流す働きがあります。食べると胆石症の方は痛みが来ることがありますのでお気を付けください。

蛤も漢方薬

阿膠と言うニカワの漢方薬があります。止血薬として有名です。血行を良くする働きや腎臓の糸球体に力を付ける働きもあると言われています。
山東省東地区にある井戸水で作った阿膠が最上品とされ山東阿膠の名前が付きました。

蛤を用いる玉阿膠

阿膠は薬用には宝石のような透明感が有り、厚手の物が上品です。
加工したものに玉阿膠があります。
玉阿膠は小麦や蛤の粉と阿膠を混ぜ火で炙り、ポップコーンのように膨膨させ珠を作ります。
蛤粉を使用し作った玉阿膠は止血効果が増強されます。体内のカルシウム平衡を改善するからだと言われています。

玉阿膠を作る時の蛤の殻は漢方薬名を文蛤と言います。炭酸カルシウムやキチンなどが含まれています。五味は鹹で潤し降ろす働きがあり、清熱作用が有ります。

蛤で火傷を

古事記には大国主神の火傷を蛤で治療したと記されています。

漢方の古典、傷寒論太陽病下篇には激しい口渇に文蛤一味の文蛤散。
同じく漢方の古典、金匱要略には嘔吐後の口渇に文蛤湯。文蛤5、石膏5、麻黄3,甘草3,乾生姜1、大棗3、杏仁4が書かれています。
いづれも文蛤の潤で清熱作用を用いています。

昔の目薬に蛤

戦前までの日本の目薬は、蛤の殻の内側に漢方薬と梅肉で出来た赤いペースト状の目薬を塗り、蛤の上下の殻を閉じ密封し販売されていました。
使う時は蛤の殻の中で、目薬を水で溶かし眼にさしていました。

阿膠が動物のニカワで酸性物質。目薬の梅肉も酸性です。蛤の殻はアルカリ性です。
酸性とアルカリ性の化学反応により、蛤の殻から抗炎症作用のある清熱成分を目薬として抽出しています。昔の人の経験による知恵は凄いですね。

魚の煮付けに梅干し

煮魚を作る時に梅干しをつんざいて入れます。魚の骨がアルカリ性です。
骨のミネラル、アルカリ成分が梅干しの酸性により抽出され流れ出てきます。ミネラルも含んだ栄養豊かな煮魚が出来ます。
お魚の南蛮漬けも酢の酸性を使った同じ理論の食文化です。