東洋医学の治療原則

東洋医学理論

2023年8月29日。写真は鹿児島県霧島市の隼人塚です。

先表後裏

身体の狂いである病は一人一人複数存在しています。これらの病を治療する順番が東洋医学では決まっています。

併病

病が進行している段階で2つに跨る病位が現れることが有ります。これを併病と言います。

傷寒論太陽病中編「二陽の併病、太陽初め病を得し、中略。因よって陽明に転属し、中略。太陽の病証罷やまざる者、中略。これを下すを逆と為す。此かくの如きは少しく発汗すべし

太陽病で発病し太陽病の発汗の治療をしたが、十分でなく陽明病に成ってしまった。少陽病の時期が短すぎるため太陽病と陽明病の併病に成っている状態です。
この状態では、裏の陽明病の治療法の下すのは逆の治療法で誤治、間違った治療法になります。表の太陽病の治療法の、発汗をすべきであると述べられています。

この治療法を先表後裏と言います。
体表に病がある太陽病と裏の内臓に病が有る場合は、「先に表を後で裏を」の治療をするため、表の太陽病の治療法で発汗をしなければいけません。
その後に裏の陽明病の病が残っていれば陽明病の下す治療を行います。

先表後裏は

  1. 表、体表から裏、内臓へ
  2. 外から内へ
  3. 上焦、身体の上部から下焦、身体の下部へ

治療をしていきます。
鍼治療でも同じで

  1. 上部の手の経絡から下部の足の経絡へ。手から足へ治療を進めます
  2. また表である腑から裏である臓へ。腑から臓へ治療を進めていきます。

治療原則を外すと誤治を生じます。

病因は表か裏

先表後裏では症状が出現している箇所も重要ですが、最も重要なのは病の原因である病因が表にあるか裏にあるかです。

のぼせの症状を例にすると、病因は

  1. 表に近い上焦の気の上昇。桂枝、甘草証が病因か。
  2. 裏の中焦の血熱。黄連、黄芩証が病因か。
  3. もっと深い裏の下焦の血熱の瘀血。桃仁、牡丹皮証が病因か。
  4. 同様に深い裏の下焦の腸の血熱。承気湯証が病因か。

判断する必要があります。

そのため、病の原因である病位を判断する技術の取得が必要になります。
その技術が古方派の三陰三陽の病位です。またそれを簡素化したのが八綱分類という技術になります。

先急後緩

前述では先に表を治療し、後で裏を治療する。または上焦から下焦へ治療をしていくのが東洋医学の治療原則だと書きました。

どんな治療法でもそうですが、この先表後裏には例外があります。
それが先急後緩です。

傷寒論陽明病篇「二陽の併病、中略。但潮熱を発し、中略。譫語する者は之を下せば即ち癒ゆ、大承気湯に宜し
太陽病と陽明病の併病で、裏の陽明病の特徴である潮熱があり、うわ言を言うほど陽明病の病態が強い時があります。
その場合、まず裏の陽明病の下す治療をすると直ぐに改善します。その後で残った表の太陽病の治療をしていきます。

例外の先急後緩

治療原則は先表後裏ですので、表の太陽病を治療し、その後に裏の陽明病を治療するのが原則です。
しかし余りにも陽明病の症状が激しい場合は先急後緩で急を要する病態である陽明病から治療をしていきます。

結果論の先補後瀉、先瀉後補

先補後瀉、先瀉後補などの治療法もあり、江戸時代には先瀉後補が主流だった時代もあります。まずは下してから、瀉してから治療を始める。その時代には瀉血なども流行ったと聞いています。
しかし本来の東洋医学の治療法から考えると、先補後瀉、先瀉後補はあくまで結果論だと考えた方が良いかもしれません。

合病

合病は急性病に限らず慢性病でもよく出現する病態です。
1つの病が複数の病位に出る病態が合病です。その内の1つの病位が本治部です。後の病位は標治部と言われる病位です。

  1. 太陽と陽明の合病。自下痢、自ら下痢が主症状。治療原則は太陽病です。
  2. 太陽と陽明の合病。喘して腹満、咳をしてお腹が張るが主症状。治療原則は太陽病です。
  3. 太陽と少陽の合病。自下痢、自ら下痢が主症状。治療原則は少陽病です。
  4. 陽明と少陽の合病。下痢し滑脈で数、下痢をし滑脈で脈拍が早いが主症状。治療原則は陽明病です。
  5. 三陽の合病。治療原則は陽明病です。

上記は古典の症状です。この症状に捉われる必要はありません。あくまで病位を表現する症状例です。
自ら下痢や腹満は陽明の特徴です。咳は太陽病の麻黄剤に多く、また少陽の下痢も有ります。

標本治療法

標治部の治療を標治法、本治部の治療を本治法と言います。
本治法だけでも病は改善します。しかし症状のある標治部も同時に治療をすると、症状も早く寛解し患者さんは楽に成ります。
本治部と同時に標治部も治療するのが標本治療法となります。

兼病

1つの病が進行中に別の病が重なった状態を兼病と言います。
例えば糖尿病坐骨神経痛を同時に発症していれば兼病になります。

治療病位が1か所ではなく数か所のため、「併病の1つと考えられる」との学説もあります。

治療原則は併病と同じく先表後裏が基本で先急後緩が例外です。
2つの病位の漢方薬を兼方。服用時間を変え2剤を投薬し、服薬順は表から裏へ、急から緩へ、時間を開けて服薬するのが基本ですが、2剤を同時に服用する合方も可能です。

合方の方法

合方は2種類の漢方薬を合わせます。処方構成で重なる薬味は分量の多い方に統一するのが基本です。
エキス剤の合方では2剤を満量で合わすのではなく、3分の2量づつ合わすのが通例です。
また、先表の病位の漢方薬量を少なめに、後裏の病位の漢方薬量を多めに合わす方法もあります。
後世方の処方の創り方に似ています。

壊病

壊病とは破壊された病、俗にこじれた病のことです。
誤治、間違った治療法を繰り返す事により、元来の正証、こじれていない病が崩れてしまった病です。慢性病で罹患期間の長い患者さんには壊病の方が割合に多く見られます。

壊病の治療法

治療は誤治による症状が強ければ、まず症状を取り正証に戻す事から始めます。
正証では、治療の糸を引けば病が寛解し良くなります。
壊病では、もつれた治療の糸を引っ張ると余計にもつれます。まず糸をほぐす事から始めます。

1つの病態を治療をすると次の病態が現れ、次の病態を治療すると更に次の病態が現れる事があります。
不思議な事に一番浅い病態と一番深い病態を治療すれば、幾つもある途中の病態は自然に解消、消失します。

どうしても治療に迷う時は「怪病は痰として治せよ」です。
水毒を考えると解決できる場合があります。「水は怪なり」です。

水は怪なり

東洋医学では病因、病気の原因を気毒、毒、水毒に分けます。

気は目に見えないエネルギーと考えると解りやすいです。
血、水は目に見える物質です。

血毒は動物性の脂と植物性の油が原因の事が多いです。
胃は水性。十二指腸から下部の腸は胆汁の界面活性作用により油脂と水性の混ざった水溶性です。
尿は水性。便は脂と水性の混ざった水溶性です。

水毒の概念

水は容れる容器で自由に形を変え変化していきます。
怪病は痰として治せよ」は複雑で深い不可解な病気は水毒が原因の事が多いことを示しています。

生物の進化と水毒

生命は地球の水性の海、水毒の中で誕生してきました。
二酸化炭素の満ちた地球では嫌気性の生物が進化し、二酸化炭素を吸い酸素を吐き出す生物が進化していきます。
その後、酸素の増えた地球上に私達のような酸素を好む好気性の生物が進化してきました。

多細胞に進化した生物は油脂、血毒を合成します。
植物が油を作り化石の石炭と成りました。動物が脂を作り化石の石油と成りました。

進化の過程でも水毒の歴史が古く深く、血毒の歴史は浅いのかもしれません。
東洋医学の病因でも血毒より水毒が深いと感じます。