急性伝染病の熱

東洋医学理論

2020年12月23日。写真は長崎県佐世保市、九十九島です。

漢方は急性伝染病のための治療医学

漢方薬は慢性病が得意と思われています。
しかし漢方医学は急性伝染病のために発達した医学です。本来は急性病が得意です。

急性病の傷寒論

東洋医学の基礎医学、解剖学として黄帝内経が有ります。
薬理学として本草学。
臨床医学として傷寒論、傷寒雑病論、金匱要略があります。

傷寒とは急性病の事です。雑病は慢性病です。
現在の日本の漢方古方派は、江戸時代より傷寒論をベースに発達してきています。

傷寒論は長沙の太守であった張仲景が記し纏めたと伝えられています。
ある時、疫病が流行り張仲景の一族の半分以上が亡くなったそうです。
その治療法として纏められたのが傷寒論です。

現在、中国には桂林本、湖南本、四川本の3種の傷寒論古本が残存していると言われています。

日本の傷寒論

日本では、延暦寺本と呼ばれる最澄が持ち帰ったとされる康治本と、高野本と言われる空海、弘法大使が持ち帰ったと言われる康平本などがあります。
日本で現在の主流は宋版と言われる傷寒論です。康平本に近い内容です。

日本の漢方は、先人が急性病に対する傷寒論の理論、三陰三陽、六病位を慢性病にも応用できるよう研究確立したものです。

西洋医学が不得意な慢性病に漢方が使われることが多く、いつの間にか慢性病に漢方を使用する概念が広まりました。
本来の漢方は、急性伝染病のための治療医学です。

病の進行と熱型パターン

東洋医学では、急性病の進行具合を病位として表します。
また病位ごとに現れる特徴的な熱型を診断の一助にしています。

古方派の病位

太陽病から少陽病、陽明病、太陰病、少陰病、厥陰病、最後は死
と病が進行していきます。
病位ごとに熱型が異なります。また病位を出す事により治療法が決定されます。

病位ごとの特徴的な熱型パターン

  1. 太陽病では悪寒、発熱
  2. 少陽病では往来寒熱
  3. 陽明病では潮熱、弛張熱
  4. 太陰病では手足虚熱
  5. 少陰病では四肢厥冷
  6. 厥陰病では上熱下寒又は極度の四肢厥冷

と成ります。

往来寒熱

往来寒熱は病が少し進行した少陽病の特徴的な熱型です。
寒と熱が往来、行き来する熱型との意味です。

往来寒熱の具体例

朝方は平熱で、夕方の18、19時前後より少し寒気がし微熱が出ます。発汗をし次の日の朝方は平熱に戻ります。これを繰り返すのが往来寒熱です。

実証、病邪の実が強い場合は、夕方ではなく昼過ぎから寒気がし夕方に微熱ではなく高熱が出ます。その後、直ぐに夜の20時前後には発汗が始まり平熱に戻ります。

虚証、正気の虚の場合は、寒気も少なく熱も高くなく、発汗も遅めで少ない傾向にあります。
更に虚すると寒気も発熱にも本人は気づかない程度になります。発汗も更に夜遅くなります。
夜のお風呂上りに普段より発汗が多くなったり、体力が落ちている時の盗汗、寝汗は虚証の往来寒熱による発汗の一つと考えられます。

逍遙熱

東洋医学で逍遙熱と言う熱型が有ります。背中が突然カァと暑く成ったり、逆に冷水を流されたように背中に冷感を感じます。
寒くて一枚服を羽織ったら、逆に暑くなり脱ぐ。脱ぐと寒くてまた羽織る。これも逍遙熱の一例です。

逍遙熱も少陽病の往来寒熱が、自律神経のコントロールが上手く出来ずに短時間で繰り返される変形パターンと考えられます。