麻黄と附子

東洋医学理論

2023年5月26日。写真は阿蘇の中岳と根子岳です。

症状は同じでも正反対の麻黄と附子

麻黄

麻黄は太陽病位の代表的な薬味です。
葛根湯や麻黄湯、小青竜湯、越婢湯、麻杏甘石湯、麻杏薏甘湯などの構成薬味です。

麻黄の働き

麻黄の働きは、体表の血流を良くすることで体表が温められ、発表、発散します。

  1. 体表を温める事で免疫力が上昇します。風邪などの初期は、発熱することにより免疫力を上げています。身体の本来の防衛機能です。
    病の初期や感染症などに使用されます。
    葛根湯や麻黄湯など。
  2. また発表、発散にて体表の水分も抜けます。
    表に水分が多い状態。痰の多い気管支炎や喘息、鼻水の多い鼻炎、膝に水が溜まり痛い関節炎、浸出液の多い皮膚病などにも応用されます。
    小青竜湯、麻杏甘石湯、麻杏薏甘湯、越婢加朮湯など。

麻黄は、体表の症状が中心です。

附子

附子は陰病の代表的な薬味で、基本は少陰病位です。
真武湯や四逆湯、麻黄附子細辛湯などの構成薬味です。太陰病位でも八味地黄丸などには附子が入ります。

附子の働き

附子は体の表と裏を温め新陳代謝機能を亢進させます。また成分のアコニンサンにより鎮痛効果があります。

  1. 裏、身体の深部まで温め新陳代謝を活発化します。
    胃腸機能の低下による下痢や食欲不振、心機能の低下による浮腫み、疲労感や眩暈、冷えなど各種機能不全に使用されます。
    四逆湯、真武湯、附子理中湯など。
  2. 表寒による痛みを除きます。
    リウマチや関節症、椎間板ヘルニア、脊椎分離症、脊中側弯症などにも使用されます。
    桂枝加朮附湯、甘草附子湯、越婢加朮附湯など。

麻黄と附子の違い

麻黄と附子は共に表寒に使用する共通点が有ります。

病位の違い

麻黄と附子は病位が異なります。麻黄は太陽病位、附子は少陰病位です。
麻黄の太陽病位は表寒が特徴です。附子の少陰病位は表寒、プラス裏寒になります。

表寒は太陽病位にも少陰病位にも共通しています。
表寒による痛みの場合、太陽病位なら麻黄剤、少陰病位なら附子剤が選択されます。

もう1つの共通点は太陽病位の麻黄は表を温め、発表にて利水します。
少陰病位の附子は表も温めますが、裏を温めて心機能を強め利水します。
作用点を考えずに結果だけを考えると、共通の温め利水で非常に間違えやすい働きがあります。

補瀉の違い

麻黄は強力な瀉剤です。附子は強力な補剤です。
麻黄は邪気を攻め瀉し、附子は正気を補い守ります。
正反対の働きです。

心臓への影響

麻黄は心臓に対して瀉剤として働きますので心臓負担があります。
心臓に問題が無い人への適応と成ります。

反対に、附子は心臓に対して補剤として働きます。心臓の力を強める働きがあります。
心臓の機能が強すぎで活発な場合、附子は心臓に力を付け過ぎますので機能亢進する場合があります。

病位を間違えた治療をすると

表寒の痛みで心機能が活発な太陽病位の患者さんへ、麻黄剤でなく附子剤を使用すると心機能が亢進し過ぎる可能性があります。
反対に表寒の痛みで心機能が弱った少陰病位の患者さんやお年寄りに、附子剤でなく麻黄剤を使用すると弱った心機能が麻黄で瀉され余計に弱り過ぎます。

心臓に瀉剤として働く麻黄。心臓に補剤として働く附子。
漢方運用で最も難しく神経を使うところです。

附子の毒を使う

炮附子と加工附子では心機能に対する働きが異なります。

毒消しをした加工附子、アコニンサンには心臓を強める働きは弱くしかありません。
一方、煎じ薬に使用する炮附子には心臓を強め新陳代謝機能を賦活する働きがあります。この働きは炮附子の煎じ時間でも調節できます。

加工附子で出来ない麻黄の毒消し

神経痛などの治療で麻黄と附子を併用することが有ります。
麻黄湯加朮附、葛根湯加朮附、桂枝二越婢一湯加朮附など多数の処方があります。

麻黄で心臓負担が出る人は、麻黄で瀉された心臓を炮附子で補うことで麻黄の心臓負担を打ち消す事が出来ます。
これは加工附子では出来ません。
麻黄で調子が悪い人は湯剤、煎じ薬で炮附子を使うと解消することが有ります。

炮附子と加工附子を使い分ける

加工附子は痛みを取る力が優れています。
しかし心臓や消化器の新陳代謝を高める真武湯や四逆湯、附子理中湯などでは、煎じ薬による炮附子を使った方が良いと思われます。
身体の機能回復には加工附子では思ったような効果は出にくいかもしれません。

痛みなどで麻黄による心臓負担が無い場合、神経痛やリウマチ、関節症には加工附子でも良いと思います。
桂枝加朮附湯、麻黄加朮附湯、葛根加朮附湯、桂枝二越婢一湯加朮附などです。
参考ですが、麻黄による発汗過多と心臓負担を脱汗として傷寒論では捉え焼針にて治療しています。

炮附子を煎じる時間で使い分ける

炮附子は煎じる時間により成分が変わります。
日本茶でも1煎目、2煎目と味が変わります。煎じる時間で成分が変化します。

一般的に煎じる時間が短いほど瀉剤の成分が多くなります。煎じる時間が長いほど補剤の働きが強くなります。湯剤は「瀉剤は短く、補剤は長く」煎じます。

附子は3種の修治により毒性は減じてあります。
更に毒性を減じるため煎じる時間を調整します。

煎じ時間での成分の変化

炮附子の毒性は煎じ始めると抽出されだし、長めに煎じると分解を始めます。
痛みに効く成分は毒性よりもやや遅めに抽出されます。煎じていくと毒性よりも遅めに分解されていきます。

この抽出と分解の時間差を利用します。
毒性がある程度分解され、痛みに対する成分が一番効果的なのが50から60分の煎じ時間だと言われています。
60分を過ぎると、毒性も分解されていきますが、痛みに対する成分も分解が進みます。

更に長く煎じると、補剤の成分が多くなります。
補剤として新陳代謝機能を増強する成分を利用したい真武湯や四逆湯では長めの60分以上煎じると良いです。

血毒による痛み

痛みには、水毒による寒が原因だけでなく血毒もあります。
疎経活血湯証、桂枝茯苓丸加薏苡仁証、六味丸加薏苡仁証、八味地黄丸証など多数の方剤の対応があります。