喘息と麻黄

東洋医学理論

2023年8月22日。写真はインドネシア、バリ島です。

心臓性喘息

気管支喘息に似た症状で心臓喘息があります
気管支喘息と同様の症状が出ます。そのため漢方では麻杏甘石湯や五虎湯、桂麻各半湯などの麻黄剤が使われたり、新薬では気管支拡張剤などが使われたりもします。

これらの薬方や処方を服用しても症状は改善しません。麻黄や気管支拡張剤は心臓に負担が生じます。逆に少しづつ悪化していきます。

心臓喘息の症状

心臓と肺機能は密接な関係が有ります。
心臓性喘息の症状の特徴は咳や痰よりも息切です。
食後に動悸がしたり息切れ喘鳴が悪化します。また階段や坂道などで息切れがし呼吸困難の症状を呈することもあります。

心臓性喘息は息切れが主訴ですが、甘草麻黄湯証や神秘湯証なども息切れが主訴ですので鑑別が必要です。

心臓喘息の漢方治療

漢方治療では
まず圧倒的に多い証は増損木防已湯証です。心不全関係に使われる処方です。この薬方で改善する方が非常に多いです。
不整脈を伴う場合は炙甘草湯証なども考慮します。
虚証では茯苓杏仁甘草湯証。
虚証で精神神経症が有ったり発汗しやすければ茯苓甘草湯証が多くなります。精神神経症が強い時は茯苓甘草湯加竜骨3牡蠣3とします。
また茯苓甘草湯と茯苓杏仁甘草湯の合方例も多いです。

伝統薬では、増損木防已湯証には補助や代用として牛黄清心元が合う人が多いです。
茯苓甘草湯や茯苓杏仁甘草湯証には回春仙や青皮剤が合う場合、或いは代用も可能です。

糸練功で心臓性喘息を診ると、心臓の反応と肺の反応の合数が同じですので鑑別は簡単に出来ます。

神秘湯

喘息や気管支炎、風邪の咳などに使用する処方で神秘湯があります。
神秘湯証は痰が少なく、息切れが中心の場合が多いです。

原典の外台秘要では麻黄3、蘇葉3、橘皮3、柴胡4、杏仁4の五味の処方です。
浅田流では厚朴3、甘草2を加え七味の神秘湯が使われています。
柴胡剤に麻黄、杏仁と厚朴、蘇葉の働きが加わった処方です。

神秘湯は未完成処方

20年以上前に漢方太陽堂に中年の男性が慌てて駆け込んで来たことがあります。「母が喘息で病院から漢方薬を貰い、飲ませたら呼吸が出来ずに苦しんでいる」と言われます。処方を見ると神秘湯のエキス剤です。
山田輝胤先生の漢方処方応用の実際に神秘湯にて呼吸困難を起こした報告が書いてあるのを思い出し「お母さまにこれを2粒、直ぐに飲ませて下さい」と言って回春仙をお渡ししたことがあります。
神秘湯は未完成処方だと思われます。

湯剤では甘草量を増量し3グラムにします。エキス剤では甘草末を0.4グラム追加すると呼吸困難は起きにくくなるようです。
また加味が出来ない時は、甘草量の多い桔梗湯と合方する方法もあります。
不幸にして呼吸困難に陥った時は回春仙などの牛黄製剤が速効です。

神秘湯にて救急車で運ばれたと言う話も聞いたことがあります。
糸練功の出来る方は、予め必ず副作用診をすると未然に防ぐことが出来ます。

お茶で飲む漢方薬

年配者の咳で、湿咳は五虎湯、乾咳には麦門冬湯とよく言われます。
また麦門冬湯は妊娠中に咳の出る妊娠咳の妙薬とも言われます。即効性です。

しわがれ声に半夏厚朴湯と麦門冬湯の合方で良くなる方がいらっしゃいます。
また麦門冬湯証の咳で気鬱を伴ったり咽中炙臠、梅核気がある場合も半夏厚朴湯合麦門冬湯を用います。

麦門冬湯証は燥咳ですので濃い切れにくい痰が多く、切れにくい痰を出すために咳き込みます。
同じ燥咳ですが、濃い痰が多いのは清肺湯証です。

湿咳なのに濃い痰の2証

喘鳴の多い湿咳は、水分が多いため一般に薄い痰の場合が多いです。
その湿咳の中で濃い痰で痰量が多いのが、今回の五虎湯証と、肺炎や気管支拡張症などにも応用される桔梗湯証です。

五虎湯は万病回春が出典です。麻黄、杏仁、甘草、石膏、桑白皮の現在は5味の処方です。麻杏甘石湯に桑白皮を加えた処方です。
麻杏甘石湯は小児に。年配者には五虎湯とも言われます。

万病回春の五虎湯

五虎湯は、原典の万病回春では細茶を加えた6味の処方構成です。
更に「痰があれば二陳湯を加える」となっています。また「生姜と葱白を加える」とも記述があります。
浅田宗伯の勿誤薬室方函口訣には「小児に最効あり」と記されています。小児にも使用することが記されています。

日本茶と白ネギも漢方薬

細茶は栄西禅師が伝えた現在の日本茶です。日本茶は五虎湯以外にも川芎茶調散などで漢方薬として使われています。
五虎湯を煎じる時に日本茶を入れる、或いは五虎湯のエキス剤を日本茶で服用すると、より原方に近くなると思われます。

葱白は白ネギです。精油のネギ油が気管支を刺激し喀痰しやすくなるようです。
煎じ薬では、煎じ終わる寸前に葱白を入れます。生の方がネギ油が残るからだと思われます。お味噌汁の最後にネギを入れるのと一緒です。
熱をかけ過ぎると揮発性の精油が失われる生薬に葱白以外に薄荷や蘇葉などもあります。
私が若い頃、喘息の発作時に白ネギを鼻に差し込んでいた民間療法をを思い出します。