半夏と病位内外

東洋医学概念

2023年4月25日。写真は鹿児島県加治木町、日本の滝百選、増水した龍門の滝です。

半夏の地獄のエグ味

私が漢方の世界に入った20代の頃、漢方薬の鑑別をする勉強をさせられました。

五感を鍛える

東洋医学の理論を用い、自分の眼で五色を、鼻で気の厚薄を、舌で五味を判断していきます。

  1. 五色と五味にて五臓の臓腑での漢方薬の働きを考えます。
  2. 色の厚さ薄さ、味の厚さ薄さ、気の厚さ薄さにより表裏と病位を考えます。
  3. 更に、香りは病因の気血水の気毒を知ります。
  4. また手で触れた感触と舌での感じ方で水毒、血毒を考えさせられました。

単味の漢方生薬だけでなく様々な漢方処方の煎じ薬も気、五味、五色を覚えていきます。
本を読んで漢方薬の成分や働きを勉強するのではありません。自分の五感で学んでいきます。

口に入れてはいけない附子と半夏

その時に口に入れてはいけない漢方生薬に附子と半夏があります。
生半夏のエグ味は強烈です。半夏を口にする時は、横に毒消し用の生の生姜を置いてします。生半夏を口にした途端、喉が焼け付き、刺す痛みがあります。地獄です。
生姜で毒消しをすると一瞬でスゥと楽になります。それでも数時間から半日くらい苦しみ続けます。

この半夏の副作用を除くための俢治、下ごしらえ、毒消しは、明礬と生姜を用い数日かけ姜半夏を作ります。

姜半夏による毒消し、俢治

  1. 私の姜半夏の作り方は、半夏を水で晒します。流水で行ったり何回も水を替えたりしていました。
  2. 水で晒した半夏を鍋に入れ明礬と生の生姜を入れ何時間もクツクツ煮込みます。
    次第に白い半夏が透明感のある黄色に変わってきます。
  3. 全ての半夏が透明に変わったら、完成しているか自分で食べてエグ味が無ければ大丈夫です。エグ味があれば更に煮込みます。これを繰り返します。
    この煮込みだけでも半日を費やします。
  4. 出来あがった姜半夏を取り出し、風通しの良い所で乾燥させます。
    固くガラガラに乾燥したら出来上がりです。黄色の透明感のある姜半夏が出来ます。

半夏はサトイモの仲間です。煮込んでいる間に溶けてしまいます。
1キログラム用意した半夏が収量は7、800グラムです。

半夏の毒消し生姜

半夏の毒消しは生姜ですると教科書にも書いてあります。
半夏の入った漢方処方には生姜が組み込まれます。半夏厚朴湯、半夏瀉心湯、半夏白朮天麻湯、小半夏加茯苓湯、小青竜湯、六君子湯など、半夏と生姜の組合せです。

生姜だけでない半夏の毒消し

しかし同じように半夏を含む抑肝散加陳皮半夏や麦門冬湯などには生姜が入っていません。
半夏の毒消しは漢方の教科書に載っている生姜だけではないという事です。

麦門冬湯の半夏の毒消しは粳米にてされています。
生姜、乾姜以外にも陳皮、杏仁、蘇子、粳米などでも半夏の毒消しは可能です。

散剤では姜半夏

散剤で半夏を使用する場合は姜半夏を使用すべきです。
しかし五積散などでは姜半夏を使用せずに生半夏を使用している製薬メーカも有ります。
その場合、五積散の中の陳皮や乾姜の精油が散剤全体に十分に行き渡るまで相当期間、寝かせば大丈夫です。

病の進行、内外

上記の五感を鍛えるで書いた表裏と内外に関して、三陰三陽、表裏、内外図が、腹証奇覧に残されています。

病の表裏、内外

病位の進行を診るのに表裏、三陰三陽、三焦、上焦、中焦、下焦の他に内外と言う概念が東洋医学には有ります。

表、外の病位

三陰三陽図には太陽病表の病位は「頭項、背。或いは乳より上と云う。内に封ずれば外と云う」と記載されています。

少陽病の半表半裏の病位は「胸骨、脇下。内に封ずれば外と云う、外」と記載されています。
太陽、少陽の病位は内外では外に当たる事が記されています。

裏、内の病位

陽明病の裏の病位は「心下、臍上。外に封ずれば内と云う、内」と記載され、陽明から始めて内と書かれています。

陽病の進行は総括にて「およそ陽病は、表より裏に迫り、外より内に入る。中焦に至りて極まる

陰病

その後、少陰、太陰、厥陰が記載されています。

病の進行

最後に陰病の進行は総括にて「およそ陰病は、下より上に迫る。下に在る病は静に、中に在る病は劇、上に迫る病は厥逆す」と記載されています。

陽病は「表より裏へ」、「外より内へ」、「上より下へ」でした。
陰病は「下より上へ迫る」となっています。
また「下に在る病は静」と太陰病は静。「中に在る病は劇」と少陰病は劇。
上に迫る病は厥逆す」厥陰病は厥逆となっています。

表裏、三陰三陽。三焦、上、中、下焦と内外は違う理論で表現が異なりますが、同じ病態を診ています。
前から見るか、後ろから見るか、左右から見るかの違いです。

五感で見る表裏、内外

この表裏内外のどの部位に、生薬と漢方薬が働くかを見て行きます。
目、鼻、舌、手の感触の五感を鍛え、鑑別出来るようになると生薬、漢方薬の鑑別が出来ます。