水は怪なり

東洋医学概念

2023年8月8日。写真は福岡城、舞鶴城の天守閣の城壁です。

水抜きの伝承療法

伝承療法の中には驚きの効果を示すものがあります。
外科倒しと言われた伯耆の伯州散は床ずれ、褥瘡などの傷口が一気に盛り上がります。
伯州散は川ガニの津蟹、反鼻、鹿の硬くなった角の鹿角を等分で黒焼きにします。本来は内服ですが漢方の紫雲膏に混ぜると非常に効果の高い伯州散軟膏が出来ます。
また毛沢東の狭心症を治した冠心2号方も中国の家伝薬の伝承薬を改良したものだと言われています。

水毒は怪しく、不思議な病態

昔から東洋医学では、色々な治療に手こずる場合は水毒を疑えと言います。
伝承されている水毒の治療と不思議な症例をご紹介します。

唐胡麻と彼岸花で膝の水を抜く

唐胡麻を絞ったのがヒマシ油です。この唐胡麻と彼岸花、曼珠沙華の球根を使うと腫れて痛い膝の水が一晩で抜けてしまいます。

唐胡麻30個の皮を取ります。彼岸花の球根3から5個も皮を取ります。すり鉢で唐胡麻と彼岸花の球根を一緒に擦ります。
寝る前に両足の土踏まずにガーゼかリント布で貼ります。片方の膝にしか水が溜まってなくても両方の土踏まずに貼るのがコツです。
何回も注射針で水を抜いた経験があると効きませんが、注射針で抜いていなければ百発百中で膝の水が抜けます。
注意です。彼岸花の球根は猛毒です。口にしないよう気を付けます。すり鉢も洗浄を徹底します。

細辛で腹水を除く

細辛と言う漢方薬があります。喘息や鼻炎に使用する小青竜湯、苓甘姜味辛夏仁湯、麻黄附子細辛湯などの構成薬味で利水剤です。

この細辛の末を寝る前に臍に詰めカット絆などで止めます。この臍への細辛末で腹水が抜ける事が有ります。
太陽堂漢薬局の患者さんで、腹水の溜まった女性に寝る前に細辛末を臍に詰める様ご指導しました。細辛末を臍に詰めると見事に腹水が抜けました。
試してみる価値はあります。

鯉と小豆で腹水に対応する

小豆は漢方名は赤小豆と言います。清熱、解毒、利水に用います。
鯉は食養では補、体力を付ける。降で降ろす働きが有りますので腹水を降ろすのかもしれません。ただやや潤の働きもあります。

  1. 小豆300グラムを水で4時間戻します。
  2. 鯉の中程度の大きさを3枚におろし、魚肉のみ細切れにします。
  3. 水で戻した小豆を1時間煮詰め、鯉の魚肉を加え更に1時間半煮詰めます。
  4. 出来上がったものを1日3回、4日間分にて食します。

私は鯉と小豆の組合せは試したことが有りません。伝承で残っているからには何らかの効果が有るのだと思います。

胃内停水と妊娠

30代後半の女性から不妊症の相談を受けた事があります。趣味でテニスを続けておられる細身でスタイルの良い女性でした。
「結婚して子供が欲しいけど出来ない」との事。「長年婦人科でも治療し、有名な漢方薬の処も何軒も試した」との事。

問診し舌診すると胃内停水を示す歯切痕が強く有ります。白朮茯苓の陰証の胃内停水の歯切痕ではありませんでした。陽証の半夏ハンゲの胃内停水の特徴のある歯切痕でした。

選薬は二陳湯です。加味も合方もしませんでした。二陳湯を投薬し、2、3ヵ月で妊娠しました。
1年後位に赤ちゃんをベビーカーに乗せ挨拶に来られました。「主人の転勤で東京に行きます。2人目の赤ちゃんも欲しいので東京で漢方治療をします。」との事。

数年後、この女性が来局されました。「主人の転勤でまた地元に戻りました。東京で何軒も漢方治療をしましたが妊娠しません。」
私が選薬したのは、また二陳湯です。
直ぐに妊娠され2人目を出産する事が出来ました。

二陳湯で2回の妊娠

二陳湯は半夏、茯苓、陳皮、甘草、生姜の五味の構成です。半夏と陳皮は毒抜きのため長期に寝かせ保存します。陳で古いほど良い生薬です。2味の陳で二陳湯です。
漢方医学を学ばれた方は、二陳湯が女性ホルモンに働くとは考えられないと感じ、また思われるでしょう。

病名や検査数値は、病態を理解するため参考になります。
しかし東洋医学の診断は証です。
病名に合わすのではなく、証。気血水、虚実、寒熱、三陰三陽、臓腑、燥湿、収散、升降に合わし治療するのが東洋医学の基本です。

脊髄空洞症

20年程前に小学5年生の男の子の漢方相談を受けました。
「脊椎に空洞が出来、水が溜まります。脊椎にパイプを入れ水を流しています」との事でした。
難病の脊髄空洞症でシャントを入れていると思われました。「体育も見学です。運動も出来ません」との訴えです。

空洞を気滞、気塊と捉え、水の溜まりを水滞と捉えました。
糸練功で確認し半夏厚朴湯を投薬しました。

半夏厚朴湯は、金匱要略の水気病篇「病者水に苦しみ、面目身体皆腫る。小便利せず、之を脈するに水を言わず反って胸中痛むを言う。気上りて咽を衝き、状炙レンの如し」と有ります。

症状を考えると

  1. 面目身体皆腫る。腎炎を始めとした浮腫み
  2. 胸中痛むを言う。神経症、五志の憂
  3. 咽を衝き状炙レン、炙レンは炙った肉の意味です。焼肉が詰まっている感じです。の如し。梅核気、咽中炙レン、神経性食道狭窄症、ヒステリー球です。

に応用できそうです。
病因を考えると

  1. 水に苦しみ、皆腫る、小便利せず。水滞
  2. 気上がりて、胸中、咽。鳩尾から喉で気の上衝が止まり、上気では有りません。

気滞、気塊と考えられます。

私は脊髄空洞症を気滞、気塊と捉えました。
半夏厚朴湯の服用を続け、男の子は脊髄に水が溜まらなくなりパイプ、シャントも取れました。また運動も出来るようになりました。更に中学に入る頃には、頸椎、胸椎に負担の掛かるマット運動も出来るようになったのです。

病名に合わすのではなく、証。気血水、虚実、寒熱、三陰三陽、臓腑、燥湿、収散、升降に合わし治療するのが東洋医学の基本です。