血滞と骨粗しょう症の痛み

東洋医学理論

2023年5月18日。写真は大分県由布市庄内町の男池の湧き水です。

痛みと漢方

東洋医学の世界では夜間の痛みは陽実証、昼間の痛みは陰虚証が多いと言われることがあります。また夜間に痛みが増すのは瘀血が原因と言われることもあります。

昼間は身体を動かしますので身体の血流は良くなります。夜は寝ているので寝返り以外に動く事が少なく血流が低下しやすい状態になっています。

起床時に痛みが激しくなる身体痛や神経痛は、血流の低下により症状が強く出ている可能性があります。よく観られる証は疎経活血湯証などです。
疎経活血湯証は瘀血ではなく血滞になります。瘀血は日本漢方の独自用語で血滞とはやや意味が異なります。

大酒飲みの疎経活血湯証

昔から大酒飲みの神経痛には疎経活血湯と言われます。
お酒、アルコールには利尿作用が有ります。
お酒を飲むとアルコールは猛毒アセトアルデヒドへ変換されます。アセトアルデヒドを無害な酢酸へ分解するため体内の水分が必要となり大量に消費します。アルコールを飲むと喉が渇くのは、アルコールの分解代謝で水分が使われ脱水状態になっているからです。

脱水状態になると血液中の水分が減少し血液がドロドロになり血滞を生じます。
大酒飲みの疎経活血湯」が出来あがります。

変形性膝関節症と漢方

変形性関節症を漢方で治療した最初の症例は、大塚敬節先生の報告でした。
その当時は奇形性関節症の病名で報告されています。用いられた薬方は防已黄耆湯の加味方で治療されています。

骨粗しょう症に防已黄耆湯加味合方

その後、大塚先生に師事されていた山田光胤先生が東洋医学会の記念講演で防已黄耆湯を中心とした様々な加味方、合方による治療症例を報告されています。

防已黄耆湯の加味方としては麻黄の加味が最も多いです。防已黄耆湯加麻黄3です。
防已黄耆湯加麻黄の麻黄の代用として、麻黄を含む麻杏薏甘湯を合方し麻杏薏甘湯合防已黄耆湯としても良いと思います。

また水毒の痛みを除くアケビの蔓である木通を加味することもあります。

他の合方例では防已黄耆湯に桂枝加朮附湯或いは越婢加朮附湯と合方します。

陽証では、防已黄耆湯加麻黄
陰証で実証は、越婢加朮附湯合防已黄耆湯
陰証で虚証は、桂枝加朮附湯合防已黄耆湯
が多いと思います。
防已黄耆湯に使う朮は、骨疾患の時は蒼朮の方が効果があると考えられます。
蒼朮は精油が多く、白朮には精油が少ないです。
蒼朮は表に、白朮は裏に」です。粘膜や裏の腎臓などには白朮を使用します。

変形性膝関節症は原因として骨粗しょう症があります。骨がもろくなることで関節が擦れ続け崩れ、レントゲンを撮ると変形したようになります。

椎間板ヘルニアを漢方内服で

従来から東洋医学では椎間板ヘルニアなどの器質的疾患の治療がされていました。腰痛や椎間板ヘルニアは漢方の得意な分野でもあります。

今から40年程前の東洋医学会は薬剤師6割、鍼灸師3割、医師1割くらいの構成でした。学会員全員が東洋医学の専門家です。
その当時、漢方薬の保険適用が進んでいた時代です。多くの西洋医学の医師達が東洋医学会に入会されてきました。現在の東洋医学会は医師が9割です。

不思議な漢方の働き

東洋医学会に入会された西洋医学の先生方から
「器質的疾患の椎間板ヘルニアが内服の漢方薬で改善するはずが無い」と疑問が出されました。
検証の為、漢方治療をする前と漢方治療後のレントゲンが撮られました。
漢方治療後は突出した椎間板がへこんでいると予想されました。

結果は椎間板が正常な状態に戻っている人もいますが、多くは椎間板が出たままだったのです。
椎間板が突出したままなのに、なぜ痛みや痺れが消失し運動も出来るほど改善するのか。当時の東洋医学会の中で議論されたのを覚えています。結論は出なかったように記憶しています。

人間の身体は不思議です。その不思議さを引き出すのが東洋医学なのかもしれません。

骨粗しょう症

骨粗しょう症は年配者や閉経後の女性に多く見られます。
しかし若い人でもマラソンなどで発汗量が多い、汗にミネラルが排泄される場合や、玄米に含まれるフィチン酸はアルカリ性のカルシウムなどの体内ミネラルを排出しますので玄米菜食主義者の人にも見られることがあります。

玄米と発汗の影響

私の知り合いの漢方家に、30代で突然に腰痛をきたし、信号の時間内に横断歩道を渡るのも苦労していた先生がいました。彼に防已黄耆湯の加味方を教えました。1ヶ月ほどの漢方治療で彼の腰痛は完治しました。彼はその当時は極端な玄米菜食主義者でした。

骨粗しょう症はカルシウムやヴィタミンD、人工骨などの適用になります。しかし老化が原因のため根本治療が無い状態です。

漢方の防已黄耆湯の加味、合方は骨粗しょう症に効果があります。
変形性関節症だけでなく、脊椎分離症、すべり症など骨粗しょう症から来る他の骨疾患にも効果があります。

骨粗しょう症の養生法

骨粗しょう症の養生は骨折と同じです。痛みが取れるまでは出来るだけ患部に負担を掛けないようにします。長い距離を歩いたり、重い物を持ったりしないようにします。

骨は筋肉に支えられています。
痛みが改善してきたら再発防止に筋力を付ける事です。
膝の場合は大腿四頭筋、腰の場合は腹筋と背筋を鍛えます。

漢方治療中に突然に痛みが増した時は、どこかで無理をした可能性があります。1回無理をすると治療が10日逆戻りをしたと考えても良いです。