肝硬変と黄疸

東洋医学理論

2023年4月14日。写真は福岡市福岡城舞鶴公園です。

肝臓の門脈圧

肝硬変肝がんなど他疾患で肝臓の血流が阻害されると肝臓の入口である門脈圧が亢進します。

食物の流れ

食事で摂った栄養分は胃で水性の物が吸収され、小腸で油性、水溶性の物が吸収され、大腸で水性の物が再度吸収されます。
吸収された栄養分は生体にとって異物です。そのため肝臓に運ばれ分解、再合成されます。
例えば牛肉を食べます。牛肉は分解され自分の生体に合うアミノ酸、タンパク質に再合成されていきます。

門脈圧亢進

その肝臓への入り口が門脈です。
肝臓の血流が低下すると肝臓へ行くはずの血流が脾臓へ流れます。すると脾臓は徐々に大きくなり脾腫となります。血液を分解する臓器の脾臓が大きくなると貧血や血小板の減少が起きます。

肝臓へ行くはずの血流が静脈へ流れると静脈が太くなり胃や食道に静脈瘤が出来だします。静脈瘤が傷つき破裂すると命に関わる大出血になることもあります。

また下部へ流れると痔核の原因になります。
痔に使う乙字湯は肝臓の血流を良くし痔核を改善する漢方薬です。

口伝で残された肝臓の漢方薬

どうしても肝機能が下がらない場合は牛黄と熊胆の組合せが奉功することがあります。
口伝ですが、牛黄60ミリグラムと熊胆40ミリグラム。又は牛黄100ミリグラムと熊胆30ミリグラムなどの配合が伝えられています。

門脈圧亢進の漢方治療

肝臓の門脈圧亢進は東洋医学では血滞になります。

一般的には桂枝茯苓丸証が多いですが、実際には甲字湯加黄芩紅花の適応が多くなります。
桃仁、牡丹皮などの証が妥当な場合が多いですが、他の薬味では血滞ですので丹参、蘇木なども検討します。
薬方では桃核承気湯や通導散なども検討します。

出血しやすい静脈瘤のことも頭に入れ処方を選択しないといけません。糸練功で副作用診を行うと静脈瘤への影響を把握できます。

糸練功に関しては以下をご参考に
誰でも出来る「糸練功」

門脈圧亢進の原因によって漢方の治療法は異なります。いづれにしても血流改善をしないといけません。
陽証の場合は様々な漢方の手が打てます。

陰証の漢方薬

陰証の場合、金匱要略の条文にある「肝の病と診て脾を治す」が役にたちます。
建中湯類の黄耆建中湯や人参湯など他、様々な薬方を検討します。

食道静脈瘤の漢方薬

食道静脈瘤の予防には三黄瀉心湯や黄解散、田七などを使用します。
私は複数回静脈瘤の治療に挑戦しました。しかしいづれも静脈瘤の消失は出来ませんでした。腕が未熟なのか。
今は破裂に対し予防的な漢方治療しか出来ないと考えています。

また肝臓の線維化である肝硬変や肺の線維化が野蒲陶エキスで消失改善した論文を報告された大学もあります。

腹水

肝硬変になると、肝臓が硬くなり肝臓を通る血流が低下します。それにより肝臓の門脈圧が亢進し腹水が貯まる事があります。

肝硬変による腹水

B型肝炎からの肝硬変の場合、人参湯合五苓散証が多いと感じます。ただ腹水の虚実、患者さんの虚実で人参湯と五苓散の割合が変わる場合が多いです。

またC型肝炎からの肝硬変の場合、黄耆建中湯証が多いと感じます。

他の原因の腹水

肝炎以外の疾患も含め腹水には、腹水が強度な場合の分消湯、やや虚証の実脾飲、補気建中湯、補中冶湿湯なども検討していきます。

分消湯の代用は、やや少なめの半夏厚朴湯と五苓散を同時服用すると同じような方意になります。

民間療法では腹水に鯉を使った療法が伝えられています。

手掌紅斑と漢方

肝硬変になると症状の1つに手掌紅斑があります。

手掌紅斑と女性ホルモン

女性はもちろんですが、男性でも女性ホルモンを持っています。ただ男性の場合は女性ホルモンより男性ホルモンの方が優位と言うだけです。

肝硬変などで肝機能が悪化すると、女性ホルモンを解毒代謝できずに血液中にエストロゲンが増加します。
その女性ホルモンが原因で手掌の血管が拡張されます。それが手掌紅斑です。

体質的な手掌紅斑

手掌に不自然な赤味が出現します。心臓より手を上に挙げると赤味は薄くなります。

元々の体質的に手掌に紅斑のある方もいます。
今まで無かった赤味が現れたら肝硬変以外にも原因が考えられますので、専門家に相談された方が良いと思います。

手掌紅斑の漢方薬

漢方では肝臓の漢方薬に牡丹皮や桃仁などの桂枝茯苓丸や黄芩、紅花を追加したりします。
また男性、女性に限らず加味逍遙散が適応になる場合もあります。

陰証の場合は、人参湯や黄耆建中湯などの太陰病位の処方が適応になります。

肝臓の疲れ

肝臓が疲れると、足腰が疲れる、微熱が続く、筋肉がつりやすい、痙攣しやすい、油物を欲っしないなどの症状が現れます。

肝臓と東洋医学

東洋医学では少陽病の中焦の病態と捉えます。
肝は筋を主る」で筋肉の収縮にも症状が出やすいです。

肝機能には問題が無くても肝臓が疲れていると考えます。
この肝臓が疲れた状態を前肝炎状態と表現される方もいらっしゃいます。

肝臓の疲れと漢方薬

この状態に最も使われるのが補中益気湯です。
浅田流では補中益気湯当帰大、当帰量を増やしますが、私は人参量を増やし補中益気湯人参大とする事が多いです。

補中益気湯証と似ていて鑑別の難しいのが、当帰六黄湯証、清暑益気湯証、人参養栄湯証などです。

補中益気湯証より、もっと気が減少しているのが八珍湯証、十全大補湯証と考えると使い分けしやすくなるかもしれません。

黄疸

赤血球の寿命は約4か月、古くなった赤血球は脾臓で破壊されます。

直接型と間接型ビリルビン

血色素のヘモグロビンは破壊により血液中で間接型ビリルビンになります。その後、肝臓で直接型ビリルビンとなり胆汁として排泄されます。

間接型ビリルビンの高値は溶血性貧血などが原因として考えられます。

直接型ビリルビンは肝臓での何らかの障害により高値を示します。

黄疸と直接型ビリルビン

そのビリルビンが表面に現れたのが黄疸です。目の白球、手の掌、爪などに現れやすいです。尿はビールの色になります。

食物中の色素で手の掌が黄色くなることがあります。ミカンなどで見られますが目の白球が黄色くなっていなければ黄疸ではないと考えられます。

アルコール性肝炎や脂肪肝、薬物性などでガンマーGTPが上昇します。ガンマーGTPは胆汁由来の酵素です。がん癌などで肝臓が圧迫されると直接ビリルビンと同様にガンマーGTPも上昇することがあります。

黄疸と漢方治療

黄疸の漢方治療は急性と慢性疾患では異なります。
慢性的進行の肝硬変やがん、自己免疫疾患などの黄疸治療は別な時にお話ししたいと思います。

急性の黄疸の漢方治療

今回は黄疸の急性状態に対する漢方治療をご紹介します。

急性肝炎の初期症状は風邪に似て寒気がしたりもします。
黄疸がでると実証では茵蔯蒿湯、中間証では茵蔯五苓散が有名です。

茵蔯蒿湯は陽明病で瀉下の方意です。
茵蔯五苓散は五苓散加茵蔯です。
五苓散は虚実の概念により少陽病に配当されていますが、血液中の水分が減少し脱水の病態ですので本来の方意は陽明病です。

また苦い生薬の茵蔯や大黄、竜胆、山梔子などは乾燥し降ろす働きです。苦は乾燥、利尿し、同時に利胆作用があります。

陽明病の方意

五苓散と同じように少陽病に配当されていますが、方意は陽明病なのが桂枝茯苓丸です。
桂枝茯苓丸証は下焦の瘀血ですので方意自体は陽明病です。