地黄と大黄

東洋医学理論

2023年7月25日。写真は熊本県、南小国町、高さ5.5メートルの押戸石。近づくと方位磁石がグルグル回ります。

地黄は胃になずむ

漢方薬味の地黄が入った漢方薬を服用すると胃腸障害のような症状を呈する人がいます。昔は地黄は、胃になずむと言われていました。

地黄はイモです。サツマイモも食べすぎると胃になずみます。解熱鎮痛剤によるプロスタグランジンを抑制することにより生じる胃腸障害、胃潰瘍などの副作用とは少し異なります。

地黄の胃腸障害を除く

地黄の配合されている処方に八味地黄丸や六味丸などがあります。胃にもたれる時は人参湯や平胃散などと合方、同時服用すると胃症状が起きなくなります。

平胃散は少陽病位の中間証からやや実証の漢方薬です。食滞と言われる胃に食物が停溜している証です。少陽病位のやや実証ですので胃が弱っているのではなく怠けている状態です。
地黄丸と人参の組合せ配合は、胃になずむとは別の理由もあります。機会がある時にご紹介します。

平胃散は構成薬味である乾姜、蒼朮、陳皮など精油成分が多い薬味で胃に刺激を与え胃の機能を活発化しています。芳香性健胃薬と同じ働きです。
人参湯にも乾姜が入っています。

地黄の胃になずむ症状は、漢方薬味の縮砂や乾姜、蒼朮、陳皮などの辛み成分で解消できます。
サツマイモも同じで、食養生では香辛料を少し多めに使用すると良いです。

大黄、煎じる時間で変わる効果

煎じる時間で、効果が大きく変わる漢方薬味に大黄と附子があります。
大黄は瀉下剤としての下剤の働きが有名です。もう一つの働きが清熱作用、抗炎症です。

大黄を10分以内で短く煎じると下剤としての働きが強くなります。三黄瀉心湯などは振剤としてお湯をかけるだけの振り出しの時もあります。
30分以上煎じると下剤の働きが徐々に弱まり、清熱作用が徐々に強くなります。

大黄の俢治

大黄はお酒、紹興酒を用いて俢治、下ごしらえをします。
お酒にに漬け乾燥させたり、お酒で洗ったり、炙ったり、方法は様々です。この酒製大黄は下剤としての働きが弱まり清熱作用が強くなります。

大黄は降の働き。お酒は升の働きです。大黄の降、下剤の働きをお酒の升で緩和しています。
同様な俢治に、生地黄や乾地黄は降の働きが強く、お酒で俢治した熟地黄は降の働きが弱くなります。

大黄の種類で効能が異なる

また大黄の種類では、唐大黄は下剤として、錦紋大黄は清熱作用として使用されます。
錦紋大黄は、切り口の模様が錦の紋のように見えるため錦紋大黄と呼ばれます。大黄の中でも上品になります。

選品としては同じ唐大黄でも重い物は降、下剤の働きが強いです。清熱作用を考えれば手に持った時に軽質の物を選品します。
東洋医学の形象薬理学では、手に持った時に重い物は降の働きが有ります。石膏、牡蠣など。
逆に軽い物は升の働きがあります。薄荷、荊芥、蘇葉などです。

また大黄は六陳八新と同様に古い物が良いと言われます。
私が若い頃「大黄は虫が湧く程の古い物が良い」と教わりました。
「虫が食べないものは毒があり、虫が食べるようになると毒が無くなる」とも教わっています。

大黄の働き

大黄の緩下成分はアントラキノン誘導体のセンノシドです。センナやアロエなどと同じです。腸を刺激することにより便通を付けます。

癖になる大黄

腸を刺激する緩下薬は適量以上だと腹痛が来ます。腹痛が来るほどの量を服用すると、腸が度重なる刺激に鈍感となり癖、習慣性になり易いです。

漢方では大黄を単独で使用することはあまり有りません。承気湯や他の漢方薬味と処方を組みます。
有名な処方に大黄甘草湯があります。甘草と組むことで甘草の家老の働きで大黄の働きが増します。また甘草の緩める働きで腹痛も来にくい処方です。
漢方界では漢方薬味の働きから甘草を家老、国老。大黄を将軍と呼びます。

大黄と芍薬

また桂枝加芍薬大黄湯と言う処方の場合、腸を緩める芍薬の働きで殆ど腹痛は来ません。癖にもなり難いです。割と安心して服用出来る処方です。
癖になり難い漢方処方でも飲みすぎるとやや癖になることも有りますので注意は必要です。

大黄と胎盤、乳腺

また他の注意点としては大黄の成分センノシドは胎盤や乳腺を通過します。しかし胎児の奇形などの報告は有りません。

大黄が乳腺関門を通過するので、昔は乳児の便秘に対しお母さまに大黄処方を服用させ、母乳を介し赤ちゃんの便秘を解消する方法も取られていました。

他に注意しないといけないのは、お腹が痛くなるほどの便秘薬は腸を収縮させ過ぎています。大腸が収縮する時には子宮も収縮しやすくなります。妊婦では早産や流産の可能性が出てくることもあります。